論説委員・田玉恵美
記者コラム「多事奏論」 田玉恵美
聞けば普通の寺だ。なのに、宗教法人になれない。そんなことがあるらしい。
埼玉県吉見町にある標高60メートルの小高い丘の上に立つ浄泉寺で、住職の福井学誠(がくじょう)さん(50)が迎えてくれた。富山の寺の次男に生まれ、NHKの報道カメラマンや東京・築地本願寺での勤務などを経て2011年に独立した。首都圏で布教を進めたい浄土真宗本願寺派の本山・西本願寺から助成金を受けての船出だった。
県境を越えて活動するなら所管は文化庁だが、浄泉寺の場合は違うので埼玉県が認めれば宗教法人になれる。公益事業にかかわる収入が非課税になり、固定資産税も原則としてゼロになるなどの利点もある。宗教法人として認めてもらうため、福井さんは独立と同時に県庁通いを始めた。
事前にチェックされる項目は多岐にわたる。3カ月に1度くらいのペースで担当課に出向き、どんな宗教活動をしているかを説明する。法話会、学習会、子ども会などの様子を伝える発行物や写真も添える。土地と建物を自前で用意する必要もある。不動産取得のための資金計画や、どんな収支で寺を運営しているのかも報告する。公共の福祉を害する行為をしていないことはもちろん、埼玉県の場合は50人ほどの信者がいるかどうかも判断の目安になる。
4年がたったころ、築100年の古民家を購入して仮住まいから移り住み、ここを正式な本堂とした。建物には、建築基準法にのっとった安全性が求められると県から指摘を受け、古民家の構造に詳しい新潟の設計士に依頼して建物の改装・補強工事もした。
宗教活動の実績を積み、法人登録に必要な規則(寺の運営方法などを定めた文書)も作って本山から承認を受けた。いまは信者も100人ほどに増えている。県の担当者は、宗教法人としての要件をほぼ備えていることを認めてくれるようになった。
ネックになったのは
だが、寺はいまだ宗教法人になれず、「非法人寺院」のままだ。
申請を出すことさえできてい…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル